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熱愛を注がれた問題作*本気で聴く クレンペラー指揮フィルハーモニア管 モーツァルト・交響曲40番/41番「ジュピター」

モーツァルトのテーマには、しばしば死や暗闇が取り上げられている。彼は単なる快活な天才ではなく、それ以上のものなのだ。

GB COLUMBIA SAX2486 オットー・クレンペラー モーツァルト・交響曲40&41番《SAX規格の初版、英マジック・ノーツ、セミサークル盤》GB COLUMBIA SAX2486 オットー・クレンペラー モーツァルト・交響曲40&41番 モーツァルトは貧困のうちに死んだのだ。そう断言する、クレンペラーのモーツァルトは生半可な姿勢で聴くわけにはいかない。
 彼はコンスタンツェ・ヴェーバーを愛し妻としたが、彼女は一緒に暮らす夫の真の価値を理解していなかった。彼は36歳という若さで死んだ。その短い生涯において、安らぐ時間はほとんどなかったと言えよう。と熱い眼差しを向けていることをクレンペラーの言葉から感じる。
 偏愛と、これを言ってはいけないだろうか。クレンペラーのベートーヴェンに対する揺るぎない敬意は、モーツァルトを同軸線上に鑑賞するわけにはいかない。しかし、数多の指揮者が録音したモーツァルトの交響曲と比べても、フィルハーモニア管弦楽団の合奏力、ナチュラルなサウンドステージを目指した EMI 録音、そして何よりも骨太で微動だにしない解釈・指揮という点において、クレンペラーのモーツァルトは無類の演奏で、評価が綺麗に二分され中間派の無い極めて個性的で、収録から半世紀近くが経った今でも、“問題作”として伯仲する珍しい存在です。

 クレンペラーとフィルハーモニア管弦楽団の録音は、1954年10月、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」からスタートしました。このとき、クレンペラーは69歳。最後のスタジオ録音は1971年9月で、奇しくも再びモーツァルトが演奏されました。曲はセレナードの第11番です。クレンペラーとフィルハーモニア管弦楽団の録音は、モーツァルトに始まり、モーツァルトで終わったのです。契約を実現させたのは EMI のプロデューサー、ウォルター・レッグでしたが、レッグは当初、クレンペラーではなく、ヤッシャ・ホーレンシュタインをフィルハーモニア管弦楽団に招きたいと考えていたそうです。
 ところが、これが縁となってモーツァルトをライフワークのように取り組んだ、繰り返し聴いても、聴き返す度に何かを発見させる、この個性極まる名演は遺されたのです。感傷のかけらさえないのに見事な造型を示す40番、そして重厚なのに透明感もある構築的な「ジュピター」。録音時期こそ5年の開きがあるが、だからこそクレンペラーのモーツァルト解釈がはっきりわかる一枚だ。これだけ高いレベルの演奏なら、その価値を失うことは不朽だ。
 フィルハーモニア管弦楽団は、ヴァイオリンを左と右に両翼配置で並べ、古典派が想定した通りの第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの掛け合いがくっきりと聞き取れる面白さに加えて、木管楽器群が音量バランス的に大き目に中央に浮かび上がり、音響的な明るさと明晰さをもたらしてくれるのはブラームスやベートーヴェンの録音と同じだ。しかし、金管とティンパニのコンビを鳴らし過ぎないので、フォルテでも威圧感が少なく、風通しの良い軽やかさが音響的にも達成されている。昨今主流のピリオド編成と比べれば巨大なオーケストラの響きながら、尚更音楽は雄弁なモーツァルト。両翼配置であることさえ聞いていると、どうでもよくなります。
 そこで、わたしも偏愛気味に言い切りたい。モーツァルト最大の二大シンフォニーが、これだけ雄大に演奏されたことはありません。
1956年7月(40番)、1962年3月(41番)、ロンドン、キングズウェイ・ホール録音。
■1963年発売。SAX 規格の中での曲の組み合わせを変えての発売。40番は25番との組み合わせでした。


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