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クアドラフォニック☆不屈の男の精神を聴け マゼール指揮クリーヴランド管 リヒャルト・シュトラウス・英雄の生涯

迫真のリアル感と一点も曇りない明確な音は、なまなましすぎて怖くなるほど。

「その胸は若々しく純な男の野望にあふれ … 誠意ある意志は世界をも領土にしてしまう。輝ける額は月桂樹の冠を夢み、確信がその眼からひらめく」
 エーバーハルト・ケーニヒが《英雄の生涯》を聴いて感じた印象ですが、詩人らしい大仰さを感じるものの、男たちが社会に立ち向かっていく心情って、そういうものじゃないかしら。この曲は老境に達した作曲家の作曲ではなく、リヒャルト・シュトラウスが35歳の時に、将来の自分像を音楽化した曲で、特定の英雄のイメージにとどまらず、世の男どものテーマ音楽にもなり得る。
 神童と騒がれたロリン・マゼールは頂点から、こてんぱんにされ再びフェニックスのごとく復活した。カラヤンの後継と期待された1960年代の DECCA 録音。数々の名門オーケストラと各レコード・レーベルで実績を重ねて1970年代後半にクリーヴランド管弦楽団で頂点を極める。その上り調子で、80年代になってウィーン国立歌劇場の総監督になり、いよいよ頂点を極めるかと思われたマゼールですが、ウィーンという伏魔殿に屈しウィーンで挫折。「タンホイザー」で主役のゴールドベルクがミスをしてブーイングをくらい、マゼールも頭にきて聴衆に向かって親指を下にしてしまった。
 これがケチのつきはじめ。さらに、その後のベルリン・フィルの音楽監督も逃しベルリンとも決裂。しかしマゼールはアメリカに舞い戻り、ピッツバーグに専念。日本資本が入った新生ソニークラシカルで見事なオーケストラ・トレーナーぶりを聞かせてくれた。起死回生の充電期間だったのだ。90年代にはバイエルン放送響という名器を手にいれ、同団をさらに高性能のオーケストラに仕立てあがることになるのでした。
 リヒャルト・シュトラウスのシリーズは、わたしの心の宝物です。今こうしていることの大いなる糧となった経験です。かつての鋭さは、いくぶん後退し、そのぶん音楽の運びに大人の余裕と構えの大きさがあります。低迷していたソニー・クラシカルの録音には好意的な評価が少なくなかったが、かつての輝きを広めようとするものではなかった。かつての輝きを維持しようと好意的なものだった。それが無用となる衝撃的なリリースとなったのが「英雄の生涯」の一撃。細部に至るまで目が行き届き、溺れるほどに濃厚な愛の情景を描きだしたかと思うと、そのあとの戦闘シーンの激烈な描き方はクリーヴランド盤よりもレヴェルアップしてます。最終章では、しみじみ感がハンパなく苦心惨憺のマゼールの達した域を味わうことができる「英雄の生涯」なのです。バイエルンの機能性の高さと音色の明るさ、輝かしい金管群の素晴らしさ。良いオーケストラと実感できます。英雄の復活に、ちょうどタワーレコード熊本店が進出して新しいリリースの度に輸入盤を買い。数ヶ月遅れの日本盤をウッドストックで買って聴き比べていました。 ― 相前後してプレヴィンがウィーン・フィルとテラークに録音。リヒャルト・シュトラウス三昧しました。 ― 同時発売と言えるくらいですが、輸入盤と日本盤はマスタリングが違い。年末になるとギフト向けのボックス・バージョンまで買いました。それほど日本のレコード・ビジネスも活気があったのです。失速してもフェニックスになれる。自分の身を自らの炎で焼いた灰の下から新しい姿を表すのがフェニックスですからね。
 熊本地震にまけるな。日々、復興に力を尽くしている男たちの姿を見ていて、このレコードを推薦したくなった。

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AU CBS SBR235955 ロリン・マゼール R.シュトラウス・英雄の生涯《豪マスターワークス盤》AU CBS SBR235955 ロリン・マゼール R.シュトラウス・英雄の生涯 圧倒的な鮮度によるクリーヴランド時代のマゼールの真骨頂。マゼールが若き日々から常に指揮し続けたのが、リヒャルト・シュトラウスでした。オペラの練達でもあったマゼールが、シュトラウスのオペラ録音を残さなかったのが不思議でなりませんが、管弦楽作品は何度も録音を重ね、ロンドン、クリーヴランド、ウィーン、ミュンヘン、ニューヨークで、いくつものレコードを残してくれました。1977年の「英雄の生涯」はマゼールにとって同曲初録音となったもので、珍しくヴァイオリンを対抗配置にしアンティフォナルな響きを追及しているのがポイント。迫真のリアル感と一点も曇りない明確な音は、なまなましすぎて怖くなるほど。ただでさえ、かっこいい旋律が満載の「英雄の生涯」だが、高性能のクリーヴランド管弦楽団が只管マゼールの棒に喰らいついていく。スピード感と、立ち上がりのよさ、切れ味の鋭さは、ウィーン・フィルやフィルハーモニア管との過去録音、あるいはバイエルン放送響との後年の録音と比較して、細部のオーケストレーションの綾を鋭敏に解きほぐしていくかのような明晰な解釈が、70年代のマゼールならでは。録音もズシリと明晰。デッカ・カルーショー&ショルティ盤に負けず劣らず素晴らしい録音だ。オーストラリア・プレス盤、ステレオ録音。
1977年1月10日、クリーヴランド録音。バド・グラハム、レイ・ムーアの録音、アンドリュー・カズディンのプロデュース。原盤 M 34566 クアドラフォニック
■レコードアカデミー賞


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March 31, 2020 at 08:00AM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1015579.html
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