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オーケストレーションの魔術師 ラヴェル、パリで苦悩の病死〜100人の大作曲家たち[89]

 ラヴェルはドビュッシーと共に印象派(印象主義)の作曲家に分類されることが多い。しかし、ラヴェルの作品はより強く古典的な曲形式に立脚しており、ドビュッシーとは一線を画すと同時にラヴェル本人も印象派か否かという問題は意に介さなかった。
 ラヴェル自身はモーツァルト及びフランソワ・クープランからはるかに強く影響を受けていると主張した。また彼はエマニュエル・シャブリエ、エリック・サティの影響を自ら挙げており、「エドヴァルド・グリーグの影響を受けてない音符を書いたことがありません」とも述べている。
ラヴェルは、また、リヒャルト・ワーグナーの楽曲に代表されるような宗教的テーマを表現することを好まず、その代わりにインスピレーション重視の古典的神話に題を取ることをより好んだ。
 母方の血筋であるスペインへの関心は様々な楽曲に見出だされ、『ヴァイオリン・ソナタ』、『左手のためのピアノ協奏曲』、『ピアノ協奏曲 ト長調』などにはジャズの語法の影響も見られる。

 12月28日は“管弦楽の魔術師”と謳われたモーリス・ラヴェルが、交通事故の後遺症によって5年にも及ぶ闘病生活の末に、パリの病院でひっそりと世を去った日である。

『スイスの時計職人』が書いた最も美しい音楽

 精密機械のような音楽を書いたラヴェルに、「スイスの時計職人」と悪態をついたのはストラヴィンスキーだったが、それは嫉妬のせいでもあったろう。それほど、ラヴェルの音楽は精緻な構造の中に美しい抒情が散りばめられていた。
 ラヴェルの“美しい音楽”を象徴するのが《亡き王女のためのパヴァーヌ》。5、6分ですんでしまう短い曲ですが、感傷的で優しさに満ちたフランス製の名品です。この曲は敬愛していたフランスの先輩シャブリエの影響を受けて、優美な宮廷舞曲パヴァーヌを効果的に用いた作品で、最初はピアノ曲として書かれ、後に管弦楽用に編曲された。原曲のピアノ曲は24歳の時に作られ、たちまちいたるところのサロンで盛んに演奏されたそうです。特に若い娘たちに人気があったらしく、これがラヴェルを逆にがっかりさせ、さかんに〈フォルムが貧弱〉、〈シャブリエの影響が強すぎる〉、〈不完全な作品〉などと自らこき下ろすのです。もっとも、そのおかげで、この曲は更に素晴らしいオーケストラ作品として生まれ変わるのです。オーケストラへの編曲は35歳の時に書かれた。ラヴェルのオーケストレーションに対する非凡な才能は、この短い舞曲にも見事に生かされております。いずれもエレガントな3つの主題によって、こうがなおうじょがゆるやかにまうすがたがえがかれる。 曲の初めにホルンが奏する主題からもう、浮世離れした美しさにため息がこぼれる。この曲はフランスのオーケストラで聞かないと駄目。
 いきなりホルンのソロによって典雅で感傷的な主題が現れますが、このホルンがフランス流に軽く、明るい音色で、甘く吹いてくれないとたちまち魅力は半減してしまいます。適度なヴィブラートがどうしても必要です。オーケストラの中の、たくさんの楽器の中で、国によってホルンほど音色の違うものはありません。まず、ドイツ製のホルンの音色とフランス製のホルンの音色とは随分違います。まず楽器自体の肉の厚さが違うのです。また楽器は同じであったとしても、ソヴィエトのオーケストラとドイツのオーケストラとでは、まるで違う吹き方をします。
 レニングラード・フィルでブラームスを聞くと、まるでチャイコフスキー編曲のように聞こえます。その第一の原因はホルンの過剰とも思えるヴィブラートにあります。ロシア人たちは甘い歌が好きなので、チャイコフスキーの第5交響曲、第2楽章の有名なホルンのソロなどは、まるでサキソフォンのような甘い音色で吹くのを普通としています。この調子でブラームスの交響曲もやるのですから、まるで砂糖漬けのブラームスとなり、ドイツのオーケストラで聞き慣れた耳には、まことに珍奇なものに聞こえてきます。これと丁度同じようなことが、ラヴェルを演奏するドイツのオーケストラにもいえるわけで、唇の薄いフランス人が軽いホルンを使って甘く吹くパヴァーヌの味は、とても重厚な持ち味を誇るドイツのオーケストラのものではありません。なお、この曲はルーヴルにあるヴェラスケスの若い王女の肖像に霊感を得たという伝説がありますが、どうも嘘くさく〈逝ける王女〉は単なるラヴェルの言葉の遊びらしいのですが、それにしてもいいタイトルを見つけたものだと思います。

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