スキップしてメイン コンテンツに移動

「人類愛」という最も普遍的なテーマを歌い上げた〜ブルーノ・ワルター、コロムビア響 ベートーヴェン・第9&交響曲8番

通販レコードのご案内ワルター渾身の力と溢れんばかりの愛情に支えられた、ヴィヴィッドで崇高な第九だ。

 戦後、ニューヨーク・フィルの音楽顧問を務めるなど欧米で精力的に活躍を続けたが、1958年に心臓発作で倒れてしばらく休養。1960年暮れにロスアンジェルス・フィルの演奏会で当時新進気鋭のヴァン・クライバーンと共演し、演奏会から引退した。80歳を越えた晩年のワルターは米国は西海岸で隠遁生活送っていたが、米コロンビア社の若き俊英プロデューサー・ジョン・マックルーアに説得されドイツ物中心にステレオ録音開始するのは1960年から。
 ベートーヴェンの《合唱》のレコードは、その前後にモノーラル録音とステレオ録音の二種がある。どちらも第1楽章〜3楽章までの録音と、第4楽章の録音は異なるオーケストラとの別セッションという共通がある。ブルーノ・ワルターにとって《合唱》はどういう存在だったのだろう。ニューヨーク・フィルとの《合唱》はロマンティックでダイナミックな演奏、1949年4月16日(1~3楽章)、1953年3月7日(4楽章)録音。
 ここでのワルターはウィーン時代とはまるで趣の異なったスタイルを披露しており、全体の運びが非常にエネルギッシュで推進力に富んでいます。勿論、リズムの絶妙な進行という点では確かにワルターの演奏であり、テンポを揺らせたずいぶんと重々しい第1楽章、異様に早いテンポ運びの第2楽章など、昔日の残り香を存分に感じ取ることが出来るのですが、戦前の演奏をSP盤で聴いてしまうとニューヨーク・フィル時代、ステレオ時代のワルターは別人に思えてしまうのです。コロンビア交響楽団時代がなければ埋もれた指揮者に成ったかもしれないが、ワルターの変容ぶりには戸惑わされる。
 本盤は、ブルーノ・ワルターがその最晩年に、録音用に特別編成されたコロンビア交響楽団と録音したベートーヴェンの交響曲全集より、8番・9番の2枚組。録音場所が変則的で、カリフォルニア、アメリカン・リージョン・ホールで第1〜3楽章を録り終えてから、ニューヨークで第4楽章のセッションを組んだ。
 ていねいに物語るように低音弦からスタートして、歓喜のテーマは安らぎに満ちて、バリトンの第一声、合唱もおっとりと健康的。宇野功芳氏はこの盤を評して声楽が入るまでは素晴らしいという旨のことを言ったがその通りだ。第3楽章は最終楽章への橋渡し的な楽章で、ワルターがその天国雰囲気を彼らしさで展開、結びは大きく続く楽章への展望をソフトに導く。そうしたところから、当時の聴き手が第九に求めていたものを説得するものではなかっただろう。ブルーノ・ワルターが送ってきた人生を現代冷静に振り返れば見えてくる解釈。劇的とは違う終楽章ですが、ワルター渾身の力と溢れんばかりの愛情に支えられた演奏はまさに比類がありません。ダイナミズムと洗練、硬軟緩急自在に操り、年齢を感じさせないヴィヴィッドで崇高な第九となっている。流浪の人生を歩んだ大指揮者が、「人類愛」という最も普遍的なテーマを最晩年に歌い上げた、未だ色褪せない感動的な記録です。
8番:1958年1月8,10,13日/9番:1959年1月19,21,26,29,31日(第1楽章~第3楽章)、1959年4月6,15日(第4楽章)、ジョン・マックルーアによる優秀録音、名演、名盤。

http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-20829.jpg
November 27, 2019 at 07:00AM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1110283.html
via Amadeusclassics

コメント

このブログの人気の投稿

優秀録音*優美な旋律と柔和な表現が忘れがたい ポリーニ、ベーム指揮ウィーン・フィル ベートーヴェン・ピアノ協奏曲第4番

通販レコードのご案内  華々しいこの曲の随所に聴かれるフレーズは粒立ったピアノのタッチに思わずため息が出てしまう。 《独ブルーライン盤》DE DGG 2530 791 ポリーニ&ベーム ベートーヴェン・ピアノ協奏曲4番  当時ベームの最もお気に入りだったピアニスト、ポリーニとの共演です。全集が計画されていたようですが、1981年にベームが他界、第1、2番を替わりにオイゲン・ヨッフムが振って変則的なカタチで完成しました。  録音はギュンター・ヘルマンス。ポリーニの精巧なタッチが怜悧れいりに録られています。録音としては極上ですが、しかし、演奏としては、この4番は物足りない。ベームはバックハウスとの火花を散らした録音があるし、ポリーニは15年後にアバドとの全集があるので全集が完成しなかったことは残念とは思えませんね。  ベートーヴェンが36歳時に完成したビアノ協奏曲第4番をポリーニが録音したのは34歳の時。第1楽章後半のベートーヴェン自身によるカデンツァを始め、華々しいこの曲の随所に聴かれるフレーズは粒立ったピアノのタッチに思わずため息が出てしまう程のポリーニの若さの発露が優っている。ステレオ録音。 1976年6月録音。優秀録音盤。ギュンター・ヘルマンスの録音。 http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-19239.jpg June 27, 2019 at 09:15AM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1065647.html via Amadeusclassics

歴史とジャズと竹あかり ― 映画上映、朗読劇とジャズ演奏で「四時軒の夕べ」を楽しみませんか

四時軒の夕べ 〜歴史とジャズと竹あかり 無料 開催日 2024年10月27日(日) 16:00〜17:10 映画上映 17:10〜17:30 「四賢婦人」朗読劇 17:30〜18:10 横井小楠記念館館長のお話 18:10〜18:30 ライトアップ点灯式 18:20〜20:00 ジャズ演奏(コントラバス、ピアノ、ドラム) 会場 四時軒 (熊本市東区沼山津1-25-91) 対象 どなたでも(申込不要・直接会場へ) 参加費 無料 主催 横井小楠顕正会 協力 熊本市都市デザイン課・秋津まちづくりセンター http://img01.ti-da.net/usr/a/m/a/amadeusrecord/Yokoi-Shohnan_gqR.jpg October 04, 2024 at 03:00AM from アナログレコードの魅力✪昭和の名盤レコードコンサートでご体験ください http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1194695.html via Amadeusclassics

名曲名盤縁起 プラター公園に訪れた、花満開の春を喜ぶ歌 シュトルツ〜歌曲《プラターに再び花は咲いて》

ウィンナ・ワルツの名指揮者シュトルツ没 ― 1975年6月27日  ウィーンという町には1年365日、朝から夜中まで音楽が鳴り響いている。夜中であったにもかかわらず、シュテファン大聖堂の建物そのものから厳かな宗教音楽が聴こえてくるのを味わうことも出来るほど、教会でのレコード録音は深夜を徹して行われている。  ウィーン音楽の王様はシュトラウス・ファミリーだが、20世気に入ってからのウィーンの楽壇で、指揮者・作曲家として大活躍したロベルト・シュトルツの音楽も、ウィーン情緒を満喫させてくれる。オペレッタやワルツに大ヒットがあるが、今日の命日には、100曲を超すという民謡風の歌曲から、ウィーンっ子がみなうたった《プラターに再び花は咲いて》を聴こう。映画「第三の男」で有名になった大観覧車のあるプラター公園の春を讃えた歌で、「プラター公園は花ざかり」というタイトルでも呼ばれている。 通販レコードのご案内  DE DECCA SBA25 046-D/1-4 ロベルト・シュトルツ レハール・メリー・ウィドウ/ジュディッタ  シュトルツにとっては、ヨハン・シュトラウスの作品をオリジナルな形でレコードに入れて後世に遺すことこそ、指揮者としての活動の頂点であることを意味すると云っていたのを読んだ事が有ります。ウィーンは音楽の都で数々の彫像や記念碑や街の通りにシューベルト、ブラームス、モーツアルト、ヨハン・シュトラウスといった大作曲家の彫刻が有ります。いずれも、生まれながらの(あるいはあとから住みついた)ウィーン市民でした。  作曲家であり指揮者であり、無冠のワルツ王の最後の人であるロベルト・シュトルツも、ウィーン音楽の生き字引としてこうしたカテゴリーに入るのではないか。1887年に天才少年ピアニストとして初めてヨーロッパを旅行してから今日に至るまで、ロベルト・シュトルツはその人生を音楽にささげてきたのである。その間には2,000曲の歌、50のオペレッタ、100にのぼる映画音楽を作曲し、数百回のレコーディングを行っているという。本盤もそうした中のセット。皆様をウィーンに誘う魅力タップリです。 ウィンナ・ワルツの伝統を保持する最後の指揮者  ウィーン・オペレッタ最末期の作曲家の一人として『春のパレード』などの作品を発表し人気を得たロベルト・シュトルツは、指揮者でオペレッ