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テスト盤☆もう一つのトリプル オイストラフ・トリオ&サージェント指揮フィルハーモニア管 ベートーヴェン・三重協奏曲

3人の独奏者の颯爽とした真摯な息吹を感じさせる見事な秀演です。

 熊本地震は突然に起こった。まさか翌日も起こるとは誰も予想だにしなかった。その記憶は有るようだが、しかし、もう両日の体験を混同している人が多い。それまで地震は、たとえ大きくても数分後に1つ2つの揺り返しがあって静まると思っていたから、いつまでも大きな揺れが続く体験は恐怖だった。
 最初の地震の揺れは長く感じた。最初はとっさに飛び跳ねたパソコンを抑えたけれども、揺れに立っていられなくなって倒れくるままにしていた。暫くじっとしていて停電が戻るのを待ったけれども、すぐに復旧しないので家の表に出てみた。隣近所はどうかなと思ったからだった。土の家からもゆるゆると人が出てきたので、同じ考えだったのだろう。ひとまず、避難場所へ行きましょうと声をかけて小学校グランドに行った。今思い返しても、その行動は間違っていなかったと自負が有る。
 映画「日輪の遺産」は昭和20年8月。「大元帥陛下におかれてはポツダム宣言の受諾を承認された」ところから始まる。その時までに軍上層部は敗戦を認知した上で、金塊を「新型砲弾」と偽って少女たちに木箱を運ばせ隠す。戦争に負けて、秘密を手伝わされていることは伝えられず8月15日に玉音放送を聞く。前後一週間もない間の出来事を描いている。
 終戦後、突然立てられたベルリンの壁は市民に予告されることなかった。ダヴィード・オイストラフは東西冷戦酣なりし時代、スターリン独裁政権下、旧ソヴィエト社会主義共和国連邦が共産主義社会の文化の象徴として西側に打ち込んだ第一弾であった。1955年の訪米に先立ち、その録音を耳にしたトスカニーニは「オイストラフが、この国を訪れたら他のヴァイオリニストは全て太陽の前の星の如く輝きを失うであろう」と音楽ジャーナリズムにメッセージを送り、報道は瞬時に世界を駆け巡った。トスカニーニがほめたヴァイオリニストというので日本でもレコードがまだ発売されるより先に、一番のヴァイオリニストと評価を得る。そして、オイストラフや、カラヤンが録音したことで突然に評判を引き上げられたのがトリプル・コンチェルトだ。
 オイストラフは協奏曲の録音が多いことが目に留まる。ドイツ・オーストリア系が目立ち、モーツァルトの協奏曲3番、ベートーヴェンの三重協奏曲とヴァイオリン協奏曲、ブラームスのヴァイオリン協奏曲と二重協奏曲に関しては新旧2種類の録音を聴く事が出来る。ベートーヴェンの三重協奏曲は新盤の顔触れが凄い。ピアノがリヒテル、チェロがロストロポーヴィチ、そしてバックがカラヤン指揮ベルリン・フィルだった。現代においては、この新盤が優先して取り上げられるが、旧録は顔触れがやや地味ではあるが、素直に作品の良さを引き出して、作品を客観視しながら、彫りの深さや滲み出て来る様な人間味を特徴としたオイストラフを身近に感じる。
「オイストラフ・トリオ」として活躍したスヴャトスラフ・クヌシェヴィツキー(Sviatoslav Knushevitzky、1908–63年)のチェロ、そしてレフ・オボーリン(Lev Oborin、1907–74年)のピアノとの共演。オイストラフはロマン派の甘美な香りを伝えるクライスラーや難度の高い曲もサラリと軽やかに弾きこなすハイフェッツやミルシテインらとは異なり、肚から音が出て来る様な重く豊かな量感で貫録たっぷりの男性的説得力がある。「問題集の解答篇を見させていただく感じ」と評したヴァイオリニストがいたが、その例えと尊敬語の言い回しも含めた卓抜な表現だろう。
 トリプル・コンチェルトは編成がかなり珍しいものだし、作品そのものにも大きな魅力がある。メロディーはそこそこ美しいし構成の堅固さは手練のものだし、3つの楽器の生かし方も不足はない。ベートーヴェンはチェロ協奏曲を書いていないし、ヴァイオリン協奏曲が一曲なのは寂しい。そのヴァイオリン協奏曲でさえ、ピアノ協奏曲に編曲しているのだから、トリプル・コンチェルトは食指を誘う曲ではないかもしれない。ピアノ・パートはルドルフ大公のために書かれたそうで、そのピアノ・パートが弱いところに起因するのか駄作とも評価されたことがある。それはバロックの複合協奏曲の趣があるからだろう。レコード時代の批評家は独奏協奏曲を評するのが書きやすい材料だったのかもしれない。
 一対一のバトルか、ソリストを主とした従のあり方とか。ともかくもカラヤン、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、リヒテルの録音が出ると手のひらを返すように名曲扱いしてました。しかし、オイストラフとカラヤンがトリプル・コンチェルトを2回レコード化しているのは興味を惹かれる。古典協奏曲が主だったレコード時代とバロック音楽もオーセンティックな演奏が容易に聞けるようになった現代。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も庄司紗矢香とチョン・ミョンフンが聴かせる主従ではなく、蓄音器時代に競奏曲と書かれていた通りの演奏が出てくるようになった。

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DE COLUMBIA SMC80871 オイストラフ・トリオ&サージェント ベートーヴェン・三重協奏曲《独 ホワイト・ラベル テスト・プレス盤》DE COLUMBIA SMC80871 オイストラフ・トリオ&サージェント ベートーヴェン・三重協奏曲 「オイストラフ・トリオ」として活躍したクヌシェヴィツキーとオボーリンとの共演。全員が大将だったカラヤン盤と比べ、こちらは室内楽的なアンサンブルを強く感じさせます。旧ソ連ならではの超人的演奏を聴かせてくれます。サージェント指揮のオーケストラも、エヴェレストのシリーズを彷彿させる過激なエネルギーに満ちていて驚かされます。
 盤はプロモーション盤で、状態が大変良い。ステレオ録音。
1958年5月4日ロンドン、EMIスタジオ録音
■名演、名盤、優秀録音。英国盤は10インチでも発売されている。


http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-18885.jpg
September 30, 2019 from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1016050.html
via Amadeusclassics

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