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音調は実に平和的で愉悦に満ちる*コーガン、モントゥー指揮ボストン響 ハチャトゥリアン ヴァイオリン協奏曲

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GB RCA VICS1153 コーガン ハチャトゥリアン・ヴァイオリン協奏曲《英VICTROLA盤》GB RCA VICS1153 コーガン ハチャトゥリアン・ヴァイオリン協奏曲 レオニード・コーガンはオイストラフと並ぶソ連の大ヴァイオリニストで、ムローヴァや佐藤陽子の師としても知られています。1982年に58歳の若さで亡くなりましたが、ロシアのヴァイオリニストとしては明るい音色で、ヴァイオリンの美しさを堪能させてくれます。残された録音はいずれも逸品です。
 ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は開戦後の1940年にオイストラフがアレクサンドル・ガウク指揮で初演しオイストラフに献呈された。世界初録音は1944年に、初演者のオイストラフとガウクがソヴィエト国立交響楽団とで行った。その後も、グーセンス指揮、ハチャトゥリアン指揮でEMIに度々録音している。ハチャトゥリアンがオイストラフより先にコーガンと録音したのは協定が理由かもしれないが、この時期のコーガンの切れ味は抜群で、もしもハイフェッツがこの曲を弾いていたらこんな感じだったのではと思わせる素晴らしい演奏だ。
楽聖ベートーヴェンが忘れられる時代がなく、ショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏されなかった時期がなかったことにいえそうなことに、古典やよく知られた旋律の引用が多いこと、あるいはよく知られた音楽の木霊が聴こえるということが、大衆にわかりやすい音楽たらんといった前提にありそうだ。
1938年にエレヴァン歌劇場のためのバレエ音楽「幸福」を作曲する中で、ハチャトゥリアンはエレヴァン周辺の民俗音楽を調べていた。この調査は、1940年にルーザでヴァイオリン協奏曲を作曲するきっかけとなった。この曲は、ジャン=ピエール・ランパルの編曲によるフルート協奏曲(1968年)としてもよく知られ、ジェームズ・ゴールウェイ、エマニュエル・パユといった世界的なフルーティストによっても録音が行われている。
第1楽章「アレグロ・コン・フェルメッツァ」冒頭の管弦楽に導かれG線上で奏される緻密なヴァイオリン独奏の第1主題の躍動感。弦による経過句を経た後グリーグのピアノ協奏曲を彷彿とさせるイ長調の第2主題が現れる。中間部で弱音器を伴い、東方民族風の主題が奏される、第2楽章「アンダンテ・ソステヌート」の慈愛豊かな静けさと安らぎ、そして第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェには民俗音楽的な主題に、チャイコフスキーの協奏曲が美しく木霊する。音調は実に平和的で愉悦に満ちる。その上、レオニード・コーガンの独奏が、いかにも峻厳でありながら、作曲家の祖国愛を見事に表現していて、繰り返し聴きたくなるほど何とも心地良い。コーガンの演奏は剛直そのもの。このハチャトリアンの協奏曲もまさにコーガンの独壇場です。ストイックであまり色気を感じさせるものではありません。ですが「快刀乱麻を断つが如く」の諺が相応しいシャープな音色と演奏は、まるで音楽の本質を抉り出すかのような快楽に満ちています。まるでマーラーの交響曲のような複雑怪奇なこの曲を完全に掌中に収め、明示的な演奏を展開しているように思います。

 一度とりあげられただけで、二度と演奏されない曲の方が圧倒的に多いのに対して、オイストラフ、コーガンが作曲者の指揮でこの曲を録音しているのに始まって、作られて間もない作品にこれだけ世界的なヴァイオリニスト、指揮者が取り上げているというのも、なんと幸せな作品だろうと思わずにはいられない。この曲の誕生からの順風満帆の履歴は、羨むべきものだ。もちろんこの曲の魅力によるものだし、初演から大変な成功を収めたこともあってのことであることはよく分かっている。多分、この曲の異国情緒、それはハチャトゥリアンがこだわり抜いたアルメニアの音楽に依拠しているのだろう。この曲のモードの独特な使い方、そして効果的なオーケストレーションから醸し出されるエキゾチシズムは、半端なものではない。
 ダビッド・オイストラフと共に20世紀ロシア-ソ連ヴァイオリン楽派を代表した巨匠、レオニード・コーガン(Leonid Kogan)が全盛期だった1958年録音。コーガンのヴァイオリンは、ピンと筋の通った演奏。高音の持続音が特に美しい。細身で、冴え冴えとして、輝かしい音色。どこまでも伸びてゆく高音から、キラキラと燦めきがこぼれ落ちてくる感じで、ため息が出るほどの美音。冷ややかな感じがするほど清冽で透明な音色と強烈な集中力、完璧なイントネーションとボーイング・テクニックを特徴とする、現代のヴァイオリニストにも通じる完璧なまでのコーガンのテクニックは、19世紀後半以後ロシア=アウアー楽派が成し遂げた極めつけの境地と言えるでしょう。
 ハチャトゥリアンの協奏曲は作曲者指揮による盤もありますが、こちらはコーガンの初訪米時にモントゥーの指揮でセッション録音された貴重な記録です。モントゥーがこの曲を指揮したのはこれが初めてだったそうだが、モントゥーの推進力に満ちた伴奏も素晴らしく、さすが「春の祭典」初演者の面目躍如たるものがあります。ハイフェッツがハチャトゥリアンの協奏曲は、弾かなかったのでRCAにとってもカタログの穴を埋めるには都合が良かったのだろうが、本盤を録音するときの、コーガンとしては西側で度々この曲を録音している親友オイストラフに対するライバル心もあったのではないだろうか。
 カデンツァはハチャトゥリアンのものを使用している。オイストラフは自作のカデンツァを使用したが、だが最近はハチャトゥリアンのカデンツァを使うのが普通のようだ。
録音:1958年1月12,13日、ボストン、シンフォニー・ホール

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