若々しい指揮者の手腕と作曲家の目が大胆でスリリングに
マゼールの卓越した楽譜の読みと、それを十全に表出するクリーヴランド管弦楽団の技術が相俟って、極めて明晰で解像度の高いブラームスが提示されている。アメリカ人のロリン・マゼールは、1930年にパリで生まれ、5歳からバイオリン、7歳から指揮を学び、8歳のときに指揮者としてデビューしました。若くしてアメリカの主要なオーケストラを指揮したあと、世界を代表するオペラハウス、オーストリアのウィーン国立歌劇場の総監督や、アメリカで最も古い歴史を持つオーケストラ「ニューヨーク・フィルハーモニック」の音楽監督を務めました。
英デッカによって収録された、このブラームス交響曲全集は、1972年にクリーヴランド管弦楽団の常任に就任したマゼールが満を持して、75、76年にかけて録音したブラームスの全集で発売は76年。マゼール40代半ば、ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートでウィリー・ボスコフスキーの後任を引き受けた期間のヴァイオリンを弾きながら指揮すぐ姿は素晴らしかった。優れたヴァイオリンの腕前で名ヴァイオリニスト・ヨアヒムの助言を得ながら作曲を進めたブラームスの音楽でのヴァイオリンの扱いに於いて演奏効果を熟知した圧倒的なオーケストラの鳴らし方が見事です。この時期のマゼールならではの緻密な音響と、徹底的に追求されたフォルムの美感や、細部に至るまで掘り起こされる音楽情報の豊富さが印象的なものです。
特に、常に克明な拍節感をもって提示される低弦の響きがもたらす、古典的とさえいいたくなる軽快さには情緒派の演奏とは対照的なマゼールのブラームス観が如実に伺われます。カラヤンから始まり、フルトヴェングラー、ワルター、セル、アーベントロート、ベーム、ザンデルリンク、ショルティなどなど、トレンドの指揮者の新しい録音も聞いていて全て惚れ惚れしてしまっていますが、聴いているうちにブラームスを聴いているというよりは指揮者を聴いているような感覚となっている、ドイツ音楽の伝統の中にある魅力です。60年代とがらりとスタイルを変えたマゼールのベートーヴェンと並び、70年代を代表する録音で、恰幅が良く極めてバランスの良い音楽を作り上げています。作曲家でもあるマゼールは、ブラームスの複雑なリズム構造を見通し良く表現。交響曲のがっしりとした枠組みを押さえつつ大胆かつ熱狂的な表現を繰り広げるスリリングな演奏は、けして常識的なものに終わらず何か新鮮なものを感じさせる。語弊はありますが、ブラームスに同化して初演時に立ち会っているような、感情を排してクリアーな音響を土台として展開される旋律の美感は、あくまでも清潔に表現しているのがマゼールらしいところです。
録音は優秀、60年代のDECCAより、より自然なバランスの音作り。弦はウィーン・フィルのように美しく、艶やかでしなやかです。ここではマゼールとクリーヴランド管弦楽団の共同作業が、単に正確なアンサンブルというだけにとどまらない楽器間の溶け合いや微妙な色調の変転にまで及ぶきわめて高度なものであったことがよくわかります。
盤は傷も無く優秀。全体にたいへん良い状態で鑑賞できます。
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《英ナローバンド盤》GB DECCA D39D 4 ロリン・マゼール ブラームス・交響曲全集、他 マゼールのクリーヴランド管音楽監督時代を代表する傑作。演奏は、この時期のマゼールならではの緻密な音響と、徹底的に追求されたフォルムの美感や、細部に至るまで掘り起こされる音楽情報の豊富さが印象的なものです。特に、常に克明な拍節感をもって提示される低弦の響きがもたらす、古典的とさえいいたくなる軽快さには、情緒派の演奏とは対照的なマゼールのブラームス観が如実に伺われます。1975年、1976年クリーヴランド、メソニック・オーディトリアム録音。
■収録曲:交響曲1〜4番、悲劇的序曲、ハイドンの主題による変奏曲、大学祝典序曲。リーフレット付属、名演、名盤。http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-20024.jpg
May 31, 2019 at 09:00AM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1021030.html
via Amadeusclassics
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