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モーツァルトを愛する彼らの理想★ グリュミオー、ディヴィス指揮ロンドン響 モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲第1番、4番

ヴァイオリン好きだけでなく、すべてのモーツァルト・ファンにおすすめしたい ― 極めつけのモーツァルト

 50年代のモノラル録音から80年代のデジタル録音までヴァイオリン協奏曲から室内楽まで、ヴァイオリンが参加する作品で幅広くグリュミオーは名録音を残した。近年ひときわ至難なモーツァルトのヴァイオリン曲の演奏ですが、手練手管の限りを尽くしたオーギュスタン・デュメイの技巧的なヴァイオリンで聴く、その面白さは比類がない。彼は鮮やかなテクニックをわざと目立たせるように弾いており、破目を外したやりたい放題で、さながらパガニーニのように響く。もちろん技巧だけではない。気取ったリズムも最高だし、フレーズの節回しは表情たっぷり。ピリオド・スタイルに慣らされロマンティックすぎると聴こえる耳も少なく無いだろう。オーギュスタン・デュメイが使っている楽譜はヨアヒムの作でグリュミオーも同じだったが、まるで別の曲を聴くようだ。

モーツァルトのヴァイオリン曲で名演を示すのは至難の業である。

 珍しく短調で書かれた中間楽章での憂いを帯びた感情の表出が印象的な協奏交響曲。因襲的なスタイルから脱して交響的な協奏曲への一歩を踏み出した、フランス風の趣を色濃く反映させた第3番。モーツァルトの死後、彼はウィーンの名ピアニストだったことで後世に伝えられますが、その通りピアノの曲は生涯にわたって作曲している。でも、モーツァルトの知名度を高めたのは優れたヴァイオリニストでもあったことです。それなのにヴァイオリン協奏曲をウィーンに来てからは何故か作曲の気配がない。彼自身、もはやヴァイオリン協奏曲は完成したと思いがあったのか、そうした背景もあり、一人の作曲家の青年期の作品と片付けられないのがモーツァルトです。

ティボーの再来

 グリュミオーは1921年ベルギーのヴィレール・ペルワン生まれ。6歳でシャルルロワ音楽院に入り、11歳でヴァイオリニスト及びピアニストの国家試験に合格。33年ブリュッセル音楽院でデュボワに師事。36年にはエネスコに師事して、早くからその才能は認められた。戦争でデビューは戦後になったが、“ティボーの再来”といわれ、フランコ・ベルギー派の直系の巨匠として、その円熟期 ― 86年没 ― の死は惜しまれる。グリュミオーは室内楽演奏にも熱心で、モーツァルトの弦楽五重奏曲全集、クラリネット五重奏曲、オーボエ四重奏曲、ディヴェルティメント K.563 など聴き応えのある室内楽名曲から、当然ヴァイオリン協奏曲から例えば、ヴァイオリン・ソナタではモノラル~ステレオ初期の名女流ハスキルとの有名な2枚の録音、自らピアノを弾いて二重録音した K.481 のソナタ、そして80年代にウィーン出身の名手ワルター・クリーンとデジタル録音した選集まで包括的に録音した。

モーツァルトは人生そのもの

 サー・コリン・デイヴィスは、1927年イギリスのウェイブリッジ生まれ。1957年から本格的指揮者となりロンドン交響楽団、ロイヤル・オペラ・ハウス、BBC交響楽団、イギリス室内管弦楽団といった有数のオーケストラを指揮し特にモーツァルトやシベリウス、ベルリオーズといった作曲家の作品を得意とし数多くの名盤を残しました。1967年BBC交響楽団の首席指揮者、1971年ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督、そして1982~1992年バイエルン放送交響楽団の首席指揮者、1995~2006年ロンドン交響楽団の首席指揮者を務めてきました。また1977年にはイギリス人として初めてバイロイト音楽祭で指揮しています。またボストン交響楽団の首席客演指揮者やシュターツカペレ・ドレスデンの名誉指揮者でもありました。デイヴィス自身「モーツァルトは人生そのもの」という言葉の通り、デイヴィスは、モーツァルト作品に内包するドラマやパトスを表出することのできる数少ない音楽家でもありました。この時期にフィリップスに録音した類まれなモーツァルティアンの名演奏は、そのほとんどが綿密に制作されたセッション録音である点も大きな特徴です。ロンドン交響楽団はワトフォード・タウン・ホールなど、ヨーロッパでも最も音響効果のよいホールで収録されており、そのバランスの取れたヨーロピアンな完熟のサウンドは、この時期のデイヴィスの音づくりを忠実に反映したものと言えるでしょう。
 そうしたデイヴィスの万全なサポートを得て、ベルギーの名ヴァイオリン奏者グリュミオーが甘美で艶やかな音色によって格調の高い演奏を聴かせている一連のフィリップスの録音は、20世紀モーツァルト演奏の金字塔と言えるでしょう。

 斯くて、類まれなモーツァルティアン - グリュミオーとデイヴィス - の邂逅が生んだ、モーツァルトの理想像。初めて聴くかのような美しさが初々しい。グリュミオーの次元を超えたヴァイオリンの音色。1961年録音。とてもシャープで切れ込みの良い音質ですが、鋭さやきつさメタリックな感じはなく Philips のなかでも良い録音の一つで、ヴァイオリンの音色も大変美しく、オーケストラの小編成の感じも良く録られています。

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GB PHILIPS 6580 009 グルミュオー&ディヴィス モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲1&4番《英レッド・ラベル銀文字》GB PHILIPS 6580 009 グルミュオー&ディヴィス モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲1&4番 グリュミオーにとってモーツァルトは晩年まで愛した作曲家のひとり。戦後間もないパリ・デビューもモーツァルトの協奏曲。若きモーツァルトの作品を、覇気のある若々しい音色で颯爽と演奏しています。彼の美音もしっかり捉えています。ハスキルの引き立て役としてわが国では有名ですが、本盤聴くにつけ和蘭フィリップス背負っていたヴァイオリニストであることが判ります。盤質良好。
■1962年4月、ステレオ録音。


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