録音、臨場感、演奏全てが、満足できる域に達している。
指環は人類史の一時代が没落してゆく、その発端、その過程、その結末を描いた物語だという人が居ます。そしてワーグナーは指環によって、愛を失い、権力と富のみを追い求める19世紀の資本主義社会を批判したわけですが、その批判は21世紀の現代にもピッタリ当てはまります。世界没落の発端は自然収奪・破壊にあるという、毎日新聞紙上を賑せているテーマをワーグナーは19世紀に警笛を鳴らし、そこには贈収賄・企業不祥事・偽造・捏造等々が進捗しない背景にあり、最近では公約違反で話題沸騰の代表選挙で忙しい権力闘争中の某政党はこの指輪のストーリーを自らのシナリオとして描いているようです。人間の欲望は何時の世も変らない、とワーグナーがワルハラ城から見下ろしているかもしれない。 クナッパーツブッシュで全4部作録音を企てた目論見は空中分解。大指揮者から視野を変えて、ショルティで開始した録音は、《ラインの黄金》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》と来て、最大の目玉《ワルキューレ》に至るまで足かけ8年の歳月を費やしてデッカによってスタジオ制作された。ワーグナー歌手に事欠かなかった時代だったが、過ぎ行く年月は統べなく歌手を同じくするのは至難なことだ。キャスティングの面でも紆余曲折あり、フリッカにヴァルナイを頼んだが断られてルードヴィヒに頼んだとか。わたし個人的にはジークフリートでのサザランドは全四部作中でも良く楽しんでいる箇所。
重要な役どころながら、第一幕だけのジェームズ・キングと、レジーヌ・クレスパンの恋人たちの場面は自然な雰囲気が出ている。この録音、ジェームズ・キングが神経質になっていたので、カルショーはトリックを仕掛ける。カルショーは録音を終えると一旦告げる。明日、続きを録音するためだからとでもリハーサルをさせたのか、楽譜を見ないで二人に歌わせたら、それがリラックスしたものになった。この時、録音テープはまだ回っていたのだ。だまし討ちだったかもしれないが、功を奏した。歌手の出入りがワルキューレは最も頻繁。カルショーの采配は見事だ。
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《英 ダーク・パープル・ラベル銀文字盤》GB DECCA MET312-6ショルティ ワーグナー・ワルキューレ 8年間のノウハウは、シリーズ中で最高の自然な雰囲気を生み出している。第1幕の録音中にちょっと神経質に陥っていたキングのために録音が終わったと告げた後で、後半のジークリンデとの場面を楽譜を見ずに二人にリラックスして歌わせて録音するトリックは功を奏した。ロンドン、ヴィントガッセンは居ないが、キング、ホッターが味わいを受け継いでいる。1962年5月6日~18日、10月21日~11月5日ウィーン、ゾフィエンザール録音
■プロデュース:ジョン・カルショー、エンジニア:エリック・スミス&ジェイムズ・ブラウン。名演、名盤、優秀録音。http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-8744.jpg
March 31, 2019 at 02:00AM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1016792.html
via Amadeusclassics
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