作品のもつ民族的色彩と独特のリズムを明快に表現することで、ロシア音楽の大きな流れを感じさせる名演奏が実現した。
《ブルーリング盤》FR DGG 2531 087 ベルガンサ&アバド ストラヴィンスキー・バレエ組曲 「プルチネルラ」 新古典主義の出発点となった軽妙かつ洒脱な「プルチネルラ」。アバドのレパートリーの幅広さを見せつけたアナログ盤の技術の完成期に、繊細な音まで記録できるデジタルの衝撃を感じたレコードだった。20世紀を代表する作曲家ストラヴィンスキーのバレエ音楽をアバドは透徹した視点でそれぞれの作品を分析し、作品の持つ色彩や独特のリズム語法を明快に表現した自在な演奏を聴かせています。イタリアの人、アバドの指揮者人生は、まさに輝きに満ちたものだった。アバドは、1979年から1988年まで、アンドレ・プレヴィンの後任としてロンドン交響楽団の首席指揮者・音楽監督を務めています。前任者プレヴィンが育成した同響の充実ぶりを引き継ぎ、より一層の精緻さを加え、ロンドン随一のアンサンブルへと発展させました。
アバドとロンドン交響楽団の録音は1960年代にデッカとドイツ・グラモフォンで始まっていますが、1970年代にはほぼ完全にドイツ・グラモフォンに移行し、ペルゴレージからベルクにいたる幅広いレパートリーで数々の名演を残しています。ストラヴィンスキーでは、「火の鳥」組曲(1972年)、「かるた遊び」(1974年)、「春の祭典」(1975年)、「プルチネルラ」(1978年)、「ペトルーシュカ」(1980年)と、LPにして4枚分の録音を行ないました。
この1970年代は、リズムも複雑でオーケストラの色彩感を生かしたストラヴィンスキーのバレエ作品が若手指揮者の試金石のように考え始めた時期で、アバドのほかにもムーティ、メータ、マゼール、マータ、小澤征爾、レヴァインなどの新世代の指揮者たちが充実した名盤を生みだした時期でした。アナログ録音は円熟の域にあり、デジタル録音の到来を準備するようにマイク・セッティングの工夫がいろいろと伝わってきた頃で、日本でのオーディオ熱も高騰していた。中でもアバドとロンドン交響楽団によるストラヴィンスキー録音は、千変万化する複雑なリズムの緻密なエクセキューション、完璧に統御されたオーケストラ・バランス、鮮やかな色彩感、そして何よりも、しなやかで柔軟性に富んだ身のこなしによって、ストラヴィンスキーのバレエ曲の最も純音楽的で洗練度の高い演奏の一つとして高く評価され、ジャケットのサイケデリックなイラストとともに音楽ファンに強い印象を残しています。
当時頂点を極めていたアナログ方式によって1978年に収録された「プルチネルラ」は、通常よく演奏される組曲版ではなく、歌が含まれる全曲版であることも大きな特色です。メゾ・ソプラノには「カルメン」で素晴らしい題名役を披露したテレサ・ベルガンサが起用され、ライランド・デイヴィス(テノール)、ジョン・シャーリー=カーク(バス)の3人の歌手と室内オーケストラでの演奏。その小編成ゆえにヘンリー・ウッド・ホールのリハーサル・ルームという珍しい会場が録音に使用されています。
心底音楽を、指揮を、楽しむ表情に生命の根源の活力として生涯一貫していたことをアバドの録音からは感じられる。アバドはストラヴィンスキーの言葉の特徴である頻繁に変化するリズムを小気味よいほど鮮やかに処理すると同時に、弦楽合奏であるイタリアの古典音楽の旋律の魅力をすっきりした表情で生かしている。そんな彼の解釈で聴かせてくれる、『プルチネルラ』の音楽が無機質な表情をとることがなく、常に生命力に溢れ、コメディア・デラルテを思わせるエネルギーが躍動している。1978年3月8日&9日、5月12日ロンドン、ヘンリー・ウッド・リハーサル・ホール、クラウス・ヒーマンのステレオ録音。
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