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英HMV最初期SP盤*DB6415-19より40g重い ジネット・ヌヴー ブラームス・ヴァイオリン協奏曲(5枚組セット)

魂の芸術。

敗戦の衝撃、未だ醒めやらぬ昭和21(1946)年12月、雑誌『創元』第一号に美学評論『モオツアルト』を発表し、日本の知識階級や魂の潤いを求めていた若者に芸術と人生の何たるかを教えた小林秀雄は、女流ヴァイオリニストが大好きであった。小林秀雄は昭和47年春、剣豪作家で音楽とオーディオに狂っていた五味康祐と鎌倉で音楽談義をした。
 席上、「私はね、皆なんだかんだって言うけれどね、ヴァイオリニストっていうのは女が一番いいと思っているんです。女とヴァイオリンっていうもののコンビがいいんです」と気焰をあげている。たまたまテレビでジョコンダ・デ・ヴィートの奏でるメンデルスゾーンを観て、レコードを全部買って来いと家人や弟子に命令したというほどの入れ揚げようである。デ・ヴィートは35歳のとき、遅咲きの名花として世に出、イタリア最高のヴァイオリニストと謳われた。
 ことヴァイオリニストに限らないが女性演奏家の特徴は、その楽器を弾いて音楽をやっていることが楽しくて、幸せでならないという気持ちが聴き手にストレートに伝わってくるところにある。
 この音楽談義で終始聴き手に回っていた五味が愛聴して已まなかったのは、夭折の天才ジネット・ ヌヴーであった。
  • ヴァイオリニストである母親のレッスンを受け、7歳の時に初めて公開演奏を行う。ジョルジュ・エネスコの講習会にも参加。情熱的な演奏を披露するヌヴーを見て、エネスコは「消防を呼びたいくらいの烈しい熱演だ」と叫んだという。ただし、彼女の演奏家としての特性はむしろ、火を噴くような荒々しいパトスの奔出、集中力に支えられた逞しい造型感、油絵のような色彩感が統合された妙味にある。
  • GB HMV DBS9126-30 ジネット・ヌヴー/ドブロウェン/フィルハモニア管 ブラームス ヴァイオリン協奏曲(78rpmSP盤5枚組完結セット)
ヌヴーは15歳の年、ヴィェニャフスキ国際コンクールに参加。下馬評では敵なしと言われた26歳のダヴィード・オイストラフを差し置いて見事に優勝した。そのとき自由曲として選んだのが、お得意のラヴェル《ツィガーヌ》。この作品は後に、兄ジャンのピアノでスタジオ録音しているが、これは子供の産めない男には逆立ちしても敵わない特別の演奏だ。ヌヴーの天性はもちろんだが、「子宮」という存在が、あの世からこの世への「魂の通り道」であるという説明抜きに、この霊的な演奏の秘密は解き明かせないだろう。
 ティボーが「ヴァイオリン界の至高の女司祭」と絶讃したヌヴーは、ティボーと同じようにエール・フランスの飛行機に乗り、30歳になったばかりの若い命を散らした。作曲者に対する共感とか、対決とか。曲よりヌヴーを感じてしまうところは、ティボーも同じだ。こんなに美しい音、鍛えられた技、清らかな魂を30歳の若さで奪うとは、運命とはなんとも 無情である。

ヌヴーの奏でるストラディバリの音はもはや楽器の音であって楽器の音ではない。楽器や肉体を媒体とした魂の声そのものだ。したがって、聴き手である私たちもまた、鼓膜や頭脳に頼らず、己が魂でヌヴーの感動を受け止めなくてはならない。ラジオの周波数を合わすように、自分の魂の周波数をヌヴーのそれに合わせよう。

エネスコは「消防を呼びたいくらいの烈しい熱演だ」と叫んだ。

通販レコードのご案内【SP盤】GB HMV DBS9126-30 ジネット・ヌヴー/ドブロウェン/フィルハモニア管 ブラームス ヴァイオリン協奏曲(78rpmSP盤5枚組完結セット)

残された録音は数えるほどしかないが、どれを聴いても燃えるように熱いヴァイオリンの音を体感することが出来る。うわべの美しさに無関心で、作品の内奥に迫るべく一音一音に全身全霊を注ぎ込む彼女の演奏には、命がけで弾いているような切迫感と集中力がみなぎっている。
  • 本SPレコードセットはイサイ・ドブロウェン指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏による1946年8月の録音も情熱的で、それでいて格調高い名演。シェラック天然樹脂から出来ているSP盤は割れ易く英国でも大体1~2枚割れているが普通、1世紀前に発売された稀有なヌブー盤。100年近い保管上、経年変化で鑑賞上不都合のない軽微な反りは有りますが貴重です。
  • GB HMV DBS9126-30 ジネット・ヌヴー/ドブロウェン/…
 ジネット・ヌヴーは1919年8月11日にパリに生まれた。親戚に「オルガン交響曲」で知られる作曲家のシャルル=マリー・ヴィドールがいる。11歳でパリ音楽院に入学し、ジュール・ブーシュリに師事。僅か8ヶ月在学しただけでプルミエ・プリを得て卒業。その後カール・フレッシュに師事、いよいよ才能が開花する。15歳のときにワルシャワで開かれた第1回ヴィエニャフスキ国際コンクールで優勝。ヴィエニャフスキの生誕100年を記念するこの大会には世界各国から有望株がこぞって参加。審査員にはフランス人はおらず、ヌヴーには不利な状況に見えた。が、最高点を獲得したのは彼女だった。このときの第2位はソ連から送り込まれた名手、27歳のダヴィド・オイストラフだったというから、天下のオイストラフを抑えた才能には計り知れないものがあったと感じます。ピアニストの兄ジャンとともに世界中をツアーして回り、録音もいくつか残している。彼女は1949年10月、5度目のアメリカ公演に行く途中、搭乗した飛行機がアゾレス諸島の山に激突し、兄とともに帰らぬ人となった。
 30歳の短い生涯のなかで、ヌヴーの残した録音は永遠不滅の魅力をたたえている。ヌヴーのヴァイオリンは胸を突き刺すような鋭い音で聴く者をとらえて離さない。フレーズのどこを切っても鮮血が飛び散りそうなほど熱い情熱が脈打っている。理智的で綺麗に整理された演奏とは正反対を行くものだ。
 没後、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章が授与され、パリ市に「ジネット・ヌヴー街」(第18区)が設けられた。

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