スキップしてメイン コンテンツに移動

過酷な自然とそれに挑む人間を描いた名曲◉ボールト指揮ロンドン・フィル リッチー ヴォーン=ウィリアムズ・南極交響曲

南極大陸初横断 ― 1958年3月2日

GB DECCA ECS577 エイドリアン・ボールト ウィリアムズ・南極交響曲 1958年、V.フックス率いるイギリス探検隊が、南極大陸初横断に成功した日である。3,660㎞を99日間かけて踏破した壮挙だった。その前に、有名な「南極点競争」の話がある。1911年から12年にかけての真冬、イギリスのスコット隊は、ノルウェーのアムンゼン隊と南極点への一番乗りを競った。しかし天運なく、先を越されたイギリス隊のR.F.スコット海軍大佐は、失意と疲労のために亡くなり、8カ月後に遺体が発見されたという悲劇である。
 これが1949年に『南極のスコット』という映画になり、ヴォーン=ウィリアムズが音楽を担当、それをもとに7番目の交響曲として改作したのが《南極交響曲》である。悲劇のエピソードのせいもあるが、イギリス最高の「シンフォニスト(交響曲作家)」との名声を得ていたヴォーン=ウィリアムズの音楽は素晴らしい。なかでも第3楽章《風景》は、荒涼たる自然への畏敬と人間の力強さが鮮やかに描かれていて感動的だ。

交響曲 第7番「南極」ではなく、《南極交響曲》

 ベートーヴェンが交響曲を9曲書いて生涯を終えたことが、気がかりとなっていた作曲家は少なくなかったようで、マーラーが抱いていた恐怖感とはいかないまでも、ヴォーン=ウィリアムズは、いっそ番号やタイトルを付けないで交響曲の楽譜に、楽種名と調性を記入していただけだった。ところが、交響曲第6番を《ホ短調の交響曲》としていたまでは良かったが、第9番を同じホ短調で作曲したことで、混乱が避けられないため、その時期になって番号付けをするようになったのである。したがって、7番目に作曲した交響曲である《南極交響曲》は交響曲 第7番「南極」のように、副題として扱うことは適切ではない。
 そして、この作品は交響曲とはいうものの、形式の拘束とは無縁に作曲されており、内容的にも標題交響曲と連作交響詩との中間にあり、実質的には交響組曲のようになっている。5つの楽章には表題があり、文学作品から引用した言葉の朗読が演奏に先立つ。
  1. 前奏曲:アンダンテ・マエストーゾ(引用句:シェリーの詩『鎖を解かれたプロメテウス』)
  2. スケルツォ:モデラート~ポコ・アニマンド(引用句:詩篇第104篇)
  3. 風景:レント(引用句:コールリジ『シャモニー渓谷の日の出前の讃歌』)
  4. 間奏曲:アンダンテ・ソステヌート(ジョン・ダン『夜明けに』)
  5. 終幕:アッラ・マルチア、モデラート(ノン・トロッポ・アレグロ)(スコット大佐の最後の日記より)
 極地における自然界の猛威と愛すべき動物たち、氷山・氷原・オーロラ・ブリザードの描写、危機を目前に進退窮まった人間の無力感と自己犠牲といったものが、ロマン派的な構成原理や印象主義的な音楽語法を駆使して描き出されている。
 ジョン・ギールグッドのナレーションが入り、マーガレット・リッチーのソプラノが第1楽章と第5楽章にある。決定盤との評価高い、エイドリアン・ボールトの録音。これぞイギリス音楽のイメージとぴったりの安定感と抒情を湛えた名演。1953年12月10,11日録音。
 初発は1954年でモノラル盤だったが、1966年、Ace Of Clubs での再発もモノラル盤だった。1971年の Decca Eclipse シリーズでステレオ盤として発売された。

通販レコード詳細・コンディション、価格

ノート

曲目:
南極交響曲
作曲:
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ

演奏

演奏者
マーガレット・リッチー
指揮:
エイドリアン・ボールト
オーケストラ:
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

プロダクト

レーベル:
英 DECCA
レコード番号:
ECS577
ラベル
PLUM WITH SILVER LETTERING, STEREO (160g)
スタンパー
1970 2W/3W
録音種別
ステレオ
プレス
GB(イギリス)盤
フォーマット
1LP

通販レコード

詳細の確認、特別価格での購入手続きは品番のリンクから行えます。
  • オーダー番号34-17022
  • 特別価格1,760円(税込)
  • 通常価格2,200円(税込)
プライバシーに配慮し、会員登録なしで商品をご購入いただけます。梱包には無地のダンボールを使用し、伝票に記載される内容はお客様でご指定可能です。郵便局留めや運送会社営業所留めの発送にも対応しております。

http://img01.otemo-yan.net/usr/a/m/a/amadeusclassics/34-17022.jpg
February 27, 2022 at 08:00PM from アナログサウンド! ― 初期LPで震災復興を応援する鑑賞会実行中 http://amadeusclassics.otemo-yan.net/e1063331.html
via Amadeusclassics

コメント

このブログの人気の投稿

♪東側の最高傑作◉フランツ・コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ベートーヴェン・交響曲7番

楽譜に対して客観的に誠実に取り組んで、ゆったり目のテンポでスケール大きく描きあげられた演奏と存在感あるゲヴァントハウスの音色 《独ブラック銀文字盤》DE ETERNA 825 416 コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ベートーヴェン・交響曲7番 旧東ドイツ時代のベートーヴェン演奏の精髄として当時大きな話題となった全集からの一枚。ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターを終生務めたコンヴィチュニーの最高傑作で、重心の低い質実剛健な演奏は今もってひとつの基準となる名演と言えます。 序奏からズドンとヘビィ級の音塊をぶつけてきます。 ― しかし野暮ったくはない。序奏が終わっても、一切慌てず騒がず。この辺、フランツ・コンヴィチュニーならではの堂々とした音楽作りが堪能できます。 言うまでもないことですがベートーヴェンが250年前に作ったスコアを録音が発明された20世紀から以降の、120年間ほどの演奏を私たちは聞き返している。名指揮者パウル・ファン・ケンペンが死去した後、志鳥栄八郎が「あれほど騒がれていた彼が、いまそうでなくなった。演奏家というのは死んだらおしまいだ」と言っていた。とはいえ名演奏家が死後、レコードで聴き継がれるケースも有る。 どんなに録音技術が進んでも、それは生の姿を十全には伝え得ないが、演奏家の音をいたずらに増幅・美化させることも出来てしまうのが録音技術でもある。ドイツの伝統を継承する巨匠コンヴィチュニーのベートーヴェンは、彼の至芸を愛でる者にとっては格別のレコードです。 聞き手の耳をさっと捕まえてしまうような魅力には乏しいかもしれません。聞き手の耳をすぐに虜にするような愛想の良さや声高な主張もありません。まず、すぐに気がつくのは、今ではなかなか聞くことのできなくなったふくよかで暖かみのあるオーケストラの響きの素晴らしさです。きらきらした華やかさとは正反対の厚みのある響きです。弦もいいですが、特に木管群の響きが魅力的です。確かに、昨今のオーケストラと比べれば機能的とは言えないのでしょうが内部の見通しも良く透明感も失っていません。とは言え、コンヴィチュニーの基本は「淡麗辛口」です。 ドンと構えていて、ここぞというところではぐっと力こぶが入る「野蛮さ」みたいなモノが残っている演奏。隅々まで指揮者の指示が行き届...

芳香に充ちている★ティボール・ヴァルガ モーツァルト ヴァイオリン協奏曲5番 スメタナ ピアノ三重奏曲

通販レコードのご案内 ライブですが録音頗る良好です。 《フェスティバル盤》CH FESTIVAL TIBOR VARGA SION ティボール・ヴァルガ モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲  ハンガリー出身の名ヴァイオリニスト、ティボール・ヴァルガが自身のオーケストラと共に録音した珠玉のモーツァルトです。このアルバムでは、ヴァイオリン独奏、そして指揮にと大活躍。生き生きとした演奏を繰り広げています。  音楽に身を捧げたとされる名匠、ヴァルガの端整なヴァイオリン演奏は、現在でも前置きなしに、そのまま通用するほどのものだ。1976年スイス・シオンで開催されたティボール・ヴァルガ音楽祭実況録音。ライブですが録音頗る良好です。楽器のヴィヴィッドな響きに驚く。古き良き時代を感じさせる優雅な演奏は近年の演奏が失った芳香に充ちている。この素晴らしいヴァイオリニストの残した遺産を、楽しもうではないですか。 《 FESTIVAL TIBOR VARGA SION 》1967年からスイスのヴァレー州シオン市で開催されている、ティボール・ヴァルガ シオン国際ヴァイオリンコンクールは、比類ない演奏と後進の指導で知られる、シュロモ・ミンツが芸術監督を務め、若い才能の発掘と育成で定評がある、若手ヴァイオリニストのための国際コンクールです。シオン・ヴァレー州音楽祭の期間中に行われ、その中心イベントとして注目を集めています。過去には、前橋汀子やジャン・ジャック・カントロフなど、現在の名ヴァイオリニストが受賞。 通販レコード詳細・コンディション、価格 プロダクト レコード番号 番号なし 作曲家 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 演奏者 ティボール・ヴァルガ 録音種別 STEREO 販売レコードのカバー、レーベル写真 コンディション ジャケット状態 M- レコード状態 EX++ 製盤国 CH(スイス)盤 通販レコード 詳細の確認、購入手続きは品番のリンクから行えます。 オーダー番号 34-22740 販売価格 3,300円 (税込) 「クレジットカード決済」「銀行振込」「代金引換」に対応しております。 http://img01.ti-da.net/usr/a/m/a/amadeusrecord/34-2274...

音楽の深まりと高まり◆存在感が圧倒的 グレン・グールド J.S.バッハ・平均律クラヴィーア曲集2巻 BWV854〜861

通販レコードのご案内 前奏曲とフーガの変幻自在なグールド的バッハのめくるめく世界が展開される。 《英ウォーキング・アイ盤》GB CBS SBRG72337 グレン・グールド バッハ・平均律クラヴィーア曲集2巻  グレン・グールドが米CBSと録音契約、1957年から録音開始した一連のバッハは秀逸で、聴き返す度に抗し難い魅力に引き込まれてしまいます。グールドの類まれなる才能を感じさせる圧倒的な名演だ。グールドによるバッハのピアノ曲の演奏は、オーソドックスな演奏とは到底言い難い超個性的な演奏と言えるところであるが、本盤のパルティータの演奏は、グールドの類稀なる個性と芸術性が十二分に発揮された素晴らしい名演と高く評価したい。  グールド以前のバッハ演奏と比べても、グールド他界後も、幾多の高名なピアニストが登場しようともグールドを過去に押しやるようなピアニストは現れていないと思えるぐらい異色のキャラが光る演奏は、何十回、何百回、レコード盤に針を下ろそうとも、そこには気持ちの良い緊張が生まれてきます。  バッハのゴルトベルク変奏曲の大ヒットによって一躍その名を高めることになったこともあってか、バッハはグールドにとって常に特別な存在であり続けました。その独特な解釈は、粒立ちのはっきりとした音と、思索的な深まりを感じさせる音を使い分けた見事なもので、グノーのアヴェ・マリアに使われておなじみとなった美しい前奏曲で開始される「平均律クラヴィーア曲集」でも、そうした特性がよく活かされており、48の前奏曲とフーガの組み合わせから浮かび上がる音楽の深まりと高まり、存在感が圧倒的です。  LPレコードで4枚。1962年から1971年にかけて6回のニューヨークの30丁目スタジオと、トロントのイートン・オーディトリアムでのセッションで録音。最終的に第1巻、第2巻通しで聴いて統一感を持たせる調整は行われてセット発売もされましたが、第1巻の後半第9曲から第16曲を演奏した本盤は、48の前奏曲とフーガの組み合わせで構成された「平均律クラヴィーア曲集」でも、独立した味わいで鑑賞できる。  侘びた風情の、落ち着いたプレリュードで始まる。初めて訪れた街を旅しているのに、前にも見たような懐かしい雰囲気に浸っていると、古いグレゴリオ聖歌が聞こえてくる第9曲。続く第10曲は、イタリア人の恋人たちがおし...