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名曲名盤縁起 ハイドンがいたずら心で書いた“びっくり交響曲” ハイドン〜交響曲第94番《驚愕》より第2楽章

パパ・ハイドン誕生 ― 1732年3月31日

DE DGG SLPM138 782 カール・リヒター ハイドン・…“交響曲の父”と呼ばれるフランツ・ヨーゼフ・ハイドンが、“パパ・ハイドン”と呼ばれて慕われるのは、彼が心の広い人間だったからだ。「自分より才能が上」と人に語ったモーツァルトからは、作品を献呈されるほど敬愛された。ベートーヴェンに対して、「やがてヨーロッパ最大の作曲家のひとりとなるでしょう」と称賛を惜しまなかったのも、並外れて謙虚で優しい人柄ゆえだった。
 交響曲だけでも100曲以上書くほど勤勉なハイドンは、湯守すとでもあった。笑ってしまう音楽もたくさん残しているが、いたずら心を起こして書いた名曲がある。「驚愕」の副題のある94番目の交響曲だ。どこかおかしみを湛えた主題が繰り返された後、突然、トゥッティ(総奏)のfffで、ドーンと一発。居眠りをしていた聴衆も、「びっくりした!」と飛び起きるという次第。緩徐楽章なのにティンパニが活躍するので、「ティンパニの打撃付き」とも呼ばれている。

ハイドンは生涯に108曲の交響曲を作り《驚愕》は94番目。自筆楽譜は、西ドイツのチュービンゲン大学とワシントンの国会図書館に分けられ、なお脱落している部分は未発見。

DE DGG 419 233-1 バーンスタイン ハイドン・交響… この曲に関する有名なエピソードの真偽のほどは、わかっておりません。新作の初演に居眠りをする聴衆に腹を立てたハイドンが、わざと第2楽章を最弱奏に導いておいてから、強烈な打撃音で眠りについた聴衆を驚かそうとした、という話です。
 確かに当時は、これで充分びっくりさせることはできたでしょう。しかし現代では、とてもこんな音ぐらいではびっくりどころか、かえって気持ち良くなって眠りたくなるくらいです。現代オーケストラで使われる最強音を、もしハイドン当時の眠れる聴衆が耳にしたら、びっくりするのを通り越して腰を抜かしてしまうに違いありません。刺激の強い音に慣れた耳には、其れ相応の強い音でなければ、効果はあがらないのです。こういう演奏における時代性といったものは、音量ばかりでなく、速度にも、音色にも当然現れてきます。
 マーラーの弟子で、モーツァルトの演奏にかけては神格化されていた指揮者ブルーノー・ワルターは、いつもこう言っていたそうです。
“モーツァルトの演奏では、絶対に開放弦を使ってはならない!”
 ヴァイオリンの糸は、下から、イ、ニ、イ、ホと調弦されていますが、ニ長調の和音を弾くときには、ニとイを指でおさえずに、開放弦を使いホの糸だけで一音高く嬰へにすれば、簡単に弾けるにもかかわらず絶対にそれを許さず、そんな楽員がいると、“モーツァルトが聞いたら一体何と言って嘆くでしょう!”といったそうです。
 ところがニューヨーク・フィルの指揮者バーンスタインは、平気でモーツァルトでも開放弦を使わせたそうです。ジャズを聞き慣れた耳には、かえってその方が美しく響くという考えなのでしょう。これなども、音色の上に現れた時代性を反映させたエピソードです。

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