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求心力の強いキビキビとした力強いバッハ演奏◉カール・リヒター ミュンヘン・バッハ管 バッハ・管弦楽組曲1番/4番

旧東ドイツの牧師の息子に生まれたリヒターは、1950年代から70年代に峻厳な気迫を湛えた入魂の演奏で、現代人の心に強くアピールする清新なバッハ像を打ち立てた。
 バッハの《管弦楽組曲》は〈ブランデンブルク協奏曲〉と並ぶその代表的管弦楽作品の一つです。この「管弦楽組曲」の名で親しまれているのはいまではバッハ作品だけですが、「序曲」と名のつく音楽と同じもので、“Ouvertüre”と綴られる。モーツァルトの時代に「交響曲」スタイルの原型となり、マーラーが〈組曲第2番〉と〈組曲第3番〉をモダン・オーケストラ用に編曲して、交響曲第1番を作曲するスタートとなった。中でも〈組曲第3番〉第2曲は通称「G線上のアリア」として有名となり、交響曲第5番は、バッハの〈組曲第3番〉をなぞっている。バッハ自筆譜は、他の作品同様に残っていないが、バッハはこの作品群を「組曲」(Suite)とは呼ばなかった。バッハにとって組曲とは、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグの4曲から成る組曲のことであったので、より自由な「序曲に始まる作品」というような意味で「序曲」 (Ouvertüre) と呼ばれていたようだ。それにより、新しいバッハ全集では「4つの序曲(管弦楽組曲)」としている。
 作曲された時期は特定できず、ヴァイマル時代、ケーテン時代に原型があって、ライプツィヒ時代にコレギウム・ムジクムで演奏するために大幅に加筆されたと考えられる。《組曲第4番》の序曲は、ヴィヴァーチェ部分に合唱を加えて、カンタータ110番の冒頭合唱曲に転用されている。LPレコードの頃には、〈組曲第5組曲 BWV1070〉としての録音があるが、今日では長男フリーデマンの作とされる。
 ピリオド楽器による演奏が今や主流の世の中であるが、それらの演奏を聴き、このリヒター盤に戻ると、ハッとさせられる箇所もあり、このリヒター盤の価値は未だ高いと認識させられるのである。 確固とした解釈のもとに鳴る音楽は、時として荘厳に、また、時として冷徹に響くが、決して嫌味でない。バッハの世俗音楽はもっと気軽に聴きたいという気持ちもないわけではありませんが、リヒター盤の峻烈な演奏から得られる感動はそういう気持ちを吹き飛ばしてしまいます。その演奏は力強く、そして力強いという以上に厳しいものであり、それがバッハの世俗音楽の演奏であるところにより大きな衝撃があります。理屈を超えて、入り込める何かが、この演奏にはあります。
 本盤は1960&61年のステレオ録音、モダン楽器小編成オーケストラによる求心力の強いキビキビとした力強いバッハ演奏が身上とされるカール・リヒターならではのパワフルな名演揃いで、聴き手の襟を正さずにはいられないリヒターの演奏がここでも聴ける。〈組曲第2番〉のソリストにオーレル・ニコレが加わっている。リヒターのしつらえた完璧なフォルムの中にあって、随所で味わい豊かなソロを聴かせてくれています。しかし、ニコレの名人芸を聴かせる演奏にはなっていない。オーレル・ニコレの、それを聴きたい人にはバウムガルトナー盤がおすすめ。リヒターの演奏を他の演奏と分けるものを精神性と呼ぶべきかどうか迷いますが、現代が忘れ去りつつある何かがこの演奏にはあります。
1960.6.14-19, 1961.6.12-16 ミュンヘン、ヘラクレスザール録音。Producer – Karl-Heinz Schneider, Recording Supervisor – Walter Alfred Wettler

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